オム「地球を愛してる地球人か、なかなか見つからないなあ~。
   たいくつだぁ~」

グル「ただいま~」
オム「どこいってたのよ、グル」
グル「ごめんごめん」
オム「ぶらついてて、何か収穫あった?」
グル「あった!・・・かな?」
オム「え、マジ?……やだ、最近、地球の若者言葉がしみついちゃって」
グル「それがさ、繁華街っていうの?
   都会のどまん中をぶらぶらしてたのね」
オム「うんうん。それで?」
グル「人がいっぱい並んでてさ。気になって並んでみたのよ」
オム「え~、グルらしくない」
グル「そうかしら?」
オム「そうよ。グルはもっと慎重だもの」
グル「並んでるってことは、地球人が興味あるものってことじゃない。
   何だろうって、好奇心よ」
オム「それで、何だったの?早く教えて、教えて!」
グル「まぁまぁ、落ち着いて」
オム「は~い」
グル「映画館だったの。そこ」
オム「映画館?」
グル「う~ん、映画を上映して観客にみせる場所よ」
オム「映画って?」
グル「・・・万能辞典によると、長いフィルム上に連続して撮影した多数の
   静止画像を、映写機に…」
オム「ああ、もうその説明はいいわ。で?それで?
   その、映画なるものを観たのね?」
グル「そう。題名はねぇ、『This Is It』っての」
オム「どんな映画だったの?」
グル「マイケル・ジャクソン、という人の映像」
オム「マイケル・・・ジャ?」
グル「ジャクソン。マイケル・ジャクソン」
オム「ふ~ん。何なのその人・・・人間、なのよね?」
グル「ええ。アメリカ合衆国の歌手」
オム「歌手・・」
グル「万能辞典によると・・」
オム「歌手くらい分かるわよ」
グル「失礼」
オム「続けて」
グル「ロンドンで久しぶりのコンサートを開く予定だったらしいの。
   そこへ向けての練習とかリハーサルとか、
   スタッフのインタビューとか」
オム「ドキュメンタリーっていうものね」
グル「あら、よく地球のこと勉強してるじゃない」
オム「ありがとう。でもさ、開く予定、だった・・・?ってことは・・」
グル「そう、開催されなかった」
オム「どうして?」
グル「死んじゃったらしいのよ、その、マイケル・ジャクソン」
オム「病気?」
グル「う~ん、色々謎めいているんだけどね」
オム「事故?」
グル「両方、なのかな。医者もマイケルの家族から訴えられたみたいだし」
オム「ふ~ん」
グル「焦点はそこじゃないのよ。なかなかよくできた映画でね。マイケ
   ル・ジャクソンがロンドン公演を成功させていたらこんなステージ
   だったであろうパフォーマンスを映し出してるの。それと、周辺の
   人たちからのマイケル賛美」
オム「へ~」
グル「でさ、たまたま隣の席に座ったおばさんがね、泣いてるのよ」
オム「え?泣く?」
グル「うん」
オム「分かった!興味を持って、そのおばさんに声を掛けた」
グル「そう。映画が終わってからね」
オム「で、おばさんは何て?」
グル「マイケル・ジャクソンってね、世界中、地球中で絶大な人気を誇った
   エンターティナーだった、って。
   それが突然亡くなって、世界中が悲しんだそうよ」
オム「おばさんが泣いたのって、どんなシーンだったの?」
グル「オリ・・なんだっけ、オリア・・・・・
   そうそう、オリアンティって名前の女性のギタリストにね、
   マイケルがアドバイスしてるの」
オム「うんうん」
グル「僕がついてるから、一番高い音を出してごらん、って言うのよ。
   もっと高く、もっと上手に。僕がついてるから大丈夫。
   キミが輝く瞬間だよ、って。でね、
   彼女がキ~ンって音を出したとき、ズッシーンってきて、
   バイブレーションが起きたって言うのよ、そのおばさん。
   あれは何だろうね、って」
オム「へぇ、そうなんだ。で?そのおばさんを連れてくの?
   我らが母星に?」
グル「オム!・・・それで、調べたの、
   そのおばさんがなんでそんなに感動してるのか不思議だったから、
   つまり、その・・・マイケル・ジャクソンのことを」
オム「うんうん。地球人がこんなに夢中になる存在って何?だものね」
グル「結論から言うと、彼は『平和の使者』ね」
オム「え~っ?おおげさね」
グル「ほんとうよ」
オム「やだ、グルまで魅了されちゃってる」
グル「彼はね、地球のことを憂えて、いろんな活動をしてたみたい。
   特に子どもたちのことを大切に思ってね。
   貧しさや病気や差別と向き合って。慈善活動もたくさん」
オム「そんな人がいたら、地球はとっくに救われてるでしょう」
グル「そんなに簡単じゃないのよ、きっと」
オム「まぁね」
グル「でさ、もっと調べてみたら、もともとずっと彼のファンも大勢いたわ
   けだけど、彼が亡くなったあとにファンになったって人が続々登場
   したらしいの。マイケル・ジャクソンの死後ファン現象」
オム「へぇ~」
グル「彼の死の報道から彼の生前のことを知っていくうちに、なぜか、
   彼に惹かれていく。寝ても覚めても彼のことが心から離れない、
   なんて人もいたみたいよ」
オム「なんと!」
グル「理由を聞いてもね、はっきり分からないと言うのよ。
   『なぜか』って言葉がぴったり」
オム「『なぜか』・・・」
グル「でね、マイケルの活動のことを知ったり、スピーチやインタビュー、
   そして何より彼の創った歌、そこからメッセージを受け取った人たち
   が、目覚めて」
オム「目覚めて?」
グル「覚醒よ。そうとしか表現のしようがないのよ」
オム「なるほど」
グル「目覚めた人たちがたくさんいてね、
   地球のために何かしようと決意した人たちが登場してくるわけ。
   募金だったり、環境や平和について考えたり」
オム「リーダーの力は偉大ね」
グル「音楽の力ってすごいよね。地球人もまんざらじゃないって思ったわ」
オム「で?その人、マイケルだっけ?連れて来た?」
グル「え?」
オム「だって、連れてくんでしょう。ミッションだもん。
   地球を一番愛している地球人」
グル「困ったわ」
オム「なんで」
グル「だって、死んじゃってるから、地球にはいないのよ」
オム「そうだった」
グル「・・・・」
オム「いちからやり直しね」
グル「おばさんに映像ディスクもらったから、観てみたら」
オム「親切なおばさんね」
グル「話を聞いてくれて嬉しかった。ありがとう、って」

 

オム「グル?グル~、どこ~?」
グル「ここよ。どこへ行こうか、探査中」
オム「ああ、いたいた」
グル「なぁに?」
オム「ねえ、ムーンウォークってすごいね。若いころの彼、最高ね」
グル「でしょう?」
オム「マイケル、月に行ったことがあるのかしら」
グル「さぁ」
オム「無重力を表現したかったのかなぁ、彼」
グル「きっと、そうね」
オム「それと、Heal the world」
グル「ええ、美しい曲ね」
オム「平和を願ってる」
グル「心から」

グル・オム「地球を愛している地球人!」