グル「どうしよう。夜が明けてしまう。私、早く帰りたいのよ」
オム「私だって!早いところ見つけないと」
グル「これで何人あたってみた?」
オム「え~っと、ちょうど100人目が終わったとこ」

グル「 あっ!ねぇ、ちょっと、あそこ見て」
オム「何?どうしたの?」
グル「ほら、あの亀裂。ずっと続いてる。そうとう深いわ。こんな山奥だから、地球人、気づかないのね。太陽系惑星における物理学で「優」を取ったあなたとしては、あとどのくらいもつと思う?」
オム「そうねぇ。これだけ深いと、あと10時間もつか、もたないか・・」
グル「それにしても、どうしてあんな亀裂ができたのかしら?」
オム「・・・・・・無駄遣い、ね」
グル「無駄遣い?」
オム「そう、地球人たちが地球を食い荒らしたってわけよ」
グル「ふ~ん、酷いことをするのね」

オム「地球人にはね、未来があるからよ。未来を思考するから」
グル「未来ねぇ、確か地球人は過去、現在、未来を考えるって聞いてはいたけど・・・」
オム「えっと、地球人の脳の構造は、大きく大脳と小脳に分けられる。生の営みは、大脳の各部分の働きによって実現されている。大脳半球の一部に前頭葉があり、哺乳類動物のなかで高等なものなどよく発達している。原子力の解放、核兵器の出現、これらは前頭葉に宿る意欲、創造の精神が生み出したもので、地球人に備わる宿命である。そう習ったわ」
グル「地球人は、現在生息する地球の生き物のうち、最も高等なのね。だから前頭葉は、著しく発達している。よって、未来を考えることは一番強い。なんとなく分かる気がするわ」
オム「とにかく、地球の命、あと10時間ってとこね。それまでに見つけられるかしら。心配になってきたわ。手ぶらで帰ったら、ほかの星へ強制移住よ。あんなに棲み良い星、離れたくないわ」
グル「だから、一番最初の酔った男を捕まえればよかったのよ」
オム「あら、だめだったわ。あれは、思考能力は低下していたし、言語も不十分で・・・それにあの男には前頭葉があった」
グル「だって、地球人にはすべて前頭葉があるのよ」
オム「結局、地球を愛してないのじゃなくって、愛せない宿命なのね」
グル「宿命かぁ・・・。もういっそ脳を改造して、前頭葉をとってしまった人間を連れて行きましょうよ」
オム「無理むり。バレたら、もっと遠い惑星へ送られる」
グル「どうしよう。もっと詳しく調査してから私たちを派遣すべきだったんだわ。・・・あら?なんだか・・・足の先がくすぐったい・・・え?なに?・・・ちょっと見て?」
オム「まあ、さっきのネコじゃない」
グル「エメラルドの瞳、絹の衣」
オム「よくよく見ると、ますますかわいい~」
にゃ~。
グル「なんて美しい声なんでしょう。ねえ、このネコについて何か分からない?」
オム「そうね、う~んと、食肉目ネコ科、北アフリカからインドに分布するリビアネコを飼いならしたのもと言われる。聴覚が鋭く、瞳孔は明るさに応じて大きさを変え、夜でもよく見える」
グル「ああ、だから、こんなエメラルドを持ってるのね。それと?」
オム「寿命は約15年。それから・・・っと、え~?額が狭いので、前頭葉はほとんどない、ですって!」
二人「と、いうことは・・・?ネコには未来がない!!」

オム「ほんとにこんなもの持って来ていいのかしら。任務は、地球人よ。地球人」
グル「いいじゃないの。任務命令にかなう地球人は存在し得なかった、ということがあの亀裂で分かったでしょう」
オム「ネコ、かぁ。大丈夫かなぁ」
グル「大丈夫。もしダメでも、私、エメラルドと絹の衣だけでもいただいちゃうわ。強制移住なんて軽い軽い」
オム「グルが言ったとおり、地球人の脳を改造して持ってくればよかったわ」
グル「愚痴ばかりこぼしてないで。見て。きれいな地球よ。ブルーとブラウン、そしてエメラルド色。すばらしい」
オム「惜しいわね。あと数時間で真っ二つなんて・・・」
グル「今が見納めね」
オム「とても疲れたわ。眠い。3年ほどお昼寝するから、着いたら起こしてちょうだい。きっとお目玉ね~」
グル「オム?オムったら、もう」
にゃ~。
グル「お~、よしよし。お前の瞳を見たら、みんなびっくりするだろうね。よしよし」